東京高等裁判所 昭和56年(行ケ)241号 判決
原告らの主張する特許庁における手続の経緯、本件発明の要旨、審決の理由の要旨並びに審決を取消すべき事由についての事実は当事者間に争いがない。
右争いのない事実に徴すると、審決は、本件発明と第一引用例記載のものとの対比判断において、第一引用例に記載された断面円弧形、逆台状溝形の焼入帯鋼を渦巻状に巻くか、単に重ね合せても、当然の結果として、その重ね合せの断面状態は必ず本件発明の明細書添付の第3図又は第7図に示されるものと同じ状態になるものとしたことは明らかである。
しかしながら、成立に争いのない甲第三号証(特公昭三九―一八〇五八号特許公報―第一引用例)によれば、第一引用例には「帯鋼の彎曲した横断面は、ゼンマイに巻締められた場合、ゼンマイの中心部分と外端末部とで永久歪の量が変化し、横断面の彎曲の度合が異なるために、各帯鋼が重なり合う断面には、極く僅かな隙間ができる。」(二頁左欄七行ないし一一行)との記載が認められ、これによると、各帯鋼が重なり合う部分が、本件発明の要旨、ことにその明細書添付の本件発明の実施例に係る第3図又は第7図のようには、接触しないものというべきである。審決は、右の如く第一引用例のゼンマイが重なり合された状態について誤つた判断をしたうえ、これを前提として、第一引用例記載のものも、本件発明と同じく、「その両端の接触面が軸心線方向に又は幅方向に対して斜めになり、その両端の接触部が前記方向に撓みをもつようになり、断面の両側端に傾斜した弾性曲り部分が形成される。」と誤つて判断したものであるから、第一引用例についての前記の判断の誤りは審決の結論に影響を及ぼすことが明らかであつて、審決は取消を免れない。
よつて、審決の取消を求める原告らの本訴請求を正当として認容することとする。
〔編註〕 本件特許発明に関する事項は左のとおりである。
1 特許庁における手続の経緯
原告らは、発明の名称を「ばね」とする特許第九九二〇九五号発明(昭和五一年一二月三〇日特許出願、昭和五五年三月二七日設定の登録。以下、この発明を「本件発明」という。)の特許権者であるが、被告らは、原告らを被請求人として昭和五五年五月一二日特許の無効の審判を請求し、昭和五五年審判第八六一二号事件として審理された結果、昭和五六年八月一〇日、「第九九二〇九五号特許は無効にする。」との審決がされ、その謄本は、同年八月二六日原告らに送達された。
2 本件発明の要旨
(一) 断面がV字形あるいは波形をなし、互いに重なり合う状態で、その両端の接触面が渦巻ばねの軸心線に対して、斜めになるように、また、その両端の接触部が軸心線の方向に撓みを持つように、上記断面の両側端に、傾斜した弾性曲り部分を形成したことを特徴とする渦巻ばね。(以下「本件発明I」ともいう。)
(二) 断面が波形をなし、互いに重なり合う状態で、その両端の接触面がそのばねの幅方向に対して斜めになるように、また、その両端の接触部が幅方向に撓みを持つように、上記断面の両側端に、傾斜した弾性曲り部分を形成したことを特徴とする重ね板ばね。(以下「本件発明Ⅱ」ともいう。)